薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

はじめに

 いま立命館大学(学部・大学院)で教えている。日本の安全保障、日本外交について英語、日本語で講義している。最近、日本の若者が内向きになっていて、元気がないとよく言われる。日本から海外へ出て行く留学生の数(とくに企業派遣)は、ここ十年ずっと激減している。中国、インド、韓国と比べて、米国向け留学生は3万人を切っている。こういう状態が10年以上も続いていくと、グローバル社会への日本の適応力の差もますます大きくなる。それが心配だ。しかし、日本の若者もなかなか積極的で、捨てたものではない。それが私の教壇での率直な印象である。

米国

 民主党政権となり鳩山内閣が成立して、明らかに日米の同盟関係はゆらいだ、そういうことはあったのだろうと思う。特に、問題だったのは、両国首脳間の信頼関係がゆらいだことだ。米側が問題にしたのは二つあった。一つは普天間基地の問題、もう一つは、東アジア共同体構想。
 鳩山総理の最初のスピーチには日米同盟関係が日本外交にとって引き続き機軸である、ということは書いてある。しかし、同時に中国を中心とするアジアとの関係が強調され、そのために東アジア共同体構想を推進していくことも明記してあった。字面だけ見ると、東アジア共同体にはアメリカは入っていない。アメリカの問いかけは、東アジアで共同体のようなものを作っていくときに、アメリカ抜きだということを日本は考えているのか、ということで、その構想は誰がみても、中国が中心になっていくだろう。それを日本はどう考えるのかということだった。
 ただ、日米同盟関係がゆらぐような話が出たことは、50年経ってみると、風化とまではいわないが、結果としてよかったのだ、と思っている。アメリカから見ても、日本との関係を当然視している、「守ってやっているんだ、協力するのは当たり前」という感じが強くなっていた。
 日本から見ても、本当にアメリカはよく守ってくれていて、ありがたいという感じがどこまであったか。それは相当希薄になっていたのではないか。むしろお金まで出して駐留させているという感じが日本国民の間にかなり強かったのではないか。
 そのような重要な一年間に中国はいろいろことで、気候変動、人民元の問題、国防費の増強など、アメリカの期待に反した行動をとった。
 日本から見てもいろいろ問題が起きる、北朝鮮や中国。しかし圧倒的に中国が問題で、つまり尖閣列島だった。それで、日本国民からしても、やっぱり安保条約が大事だという感じ。米国側でもやはり中国は問題で、日本との間が大事だと、双方にそういうことがあった。雨降って地固まるということではないか。

 日本も言えたことではないが、アメリカのガバナビリティは相当落ちてきている。
「米国が債務不履行になりはしないか」というようなことが、まともに論じられたりするほどで、来年の大統領選、あるいはそれ以後についても、あまり良い方向には向かわない、そういう状況を、世界は経験するのではないか。
 対外的には、アメリカは明らかに内向きになる。イラク、アフガニスタンと続いた対外コミットメントへの疲れがアメリカ国民に出てきている。オサマ・ビンラディンの殺害で、アフガン派遣軍の撤収をもっとスピードアップしろという議論も含めて、対外コミットメントを縮小していくのではないか。
 リビアでは、フランス、イギリスに対してアメリカは一歩引いている。そのため、カダフィ大佐ひとりに、NATOがよってたかっても、上手くいかない。

 そうした中で、東アジアが引き続きアメリカの重点エリアであることは間違いない。特にオバマ大統領ご本人に、ハワイで生まれ、インドネシアで育ったという背景もあって、非常に強い思い入れがある。
 オバマ氏は、この11月の東アジア・サミットに、アメリカの大統領として初めて出席する。11月には毎年APECの首脳会談がある。常識的、事務方的な感覚では、アメリカの大統領を同じ時期に2度もアジアに行かせるということは無理だとされるのだが、これは、オバマ大統領自身のパーソナルなコミットメントだとホワイトハウスが言っている。米国が選択的な外交を進めていくとしても、東アジアにコミットしていくことは間違いなかろう。

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