薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

中国

 日本の外交不在と言われたりすることがあって、私自身も相当な危機感を持っているが、この時点ほど大事なことはないと言えるほど重要なことが東アジアで起きている。ベトナムと中国の問題だ。南シナ海で、中国が相当やりたい放題をやってきた。それに対して「ベトナムが中国との紛争においてアメリカに支援を求めている」といったことが報じられている。これは日本にとっても重要で、つまり東シナ海でも南シナ海と同じ問題が起き得ると考えたほうがいい。

 南シナ海について中国は「自分たちの海だ」とし、去年5月、米国との戦略対話で「あれは中国のcore interestである」と表現した。”core interest”は、従来チベット、台湾について言ってきたことで、同じ言葉を南シナ海に使ってアメリカに認めさせようとした。正に大国主義の表れで、大国意識の大きな過ちであったと思う。クリントン国務長官は強く反対した。その後には去年のハノイでのASEAN Regional Forumで、アメリカも日本も、そしてASEANの国もみな立ち上がって中国に文句を言った。その後9月に、尖閣の問題が起きている。

 日本外交にとって非常に大事だというのは、こういうときこそ日本が一番ベトナムをサポートすべきだということだ。私は、この10月の東アジア・サミットでこの問題をとりあげ、なんとか中国も反対できないようなかたちで南シナ海、東シナ海についての海洋ルールを作ることができればよいが、と考えていた。しかし、事態はもっと早くて、いま南シナ海でベトナムと中国の問題が顕在化している。そういうなかで、日本がどういう外交ができるかが問われている。こういう大事なときに、なかなか外交が展開できていないのでないか、ということがある。

 ただ、中国との付き合い方を考えると、経済的には中国との関係なしには考えられない。ヨーロッパはほとんど盲目的に中国市場へ出ようとしている。アメリカ企業も、いろいろあっても結果として中国に、ということになっている。

 私自身の中国についての懸念を言えばあの体制が本当にうまくいくかどうかということ。最近になってだんだん出ているのは、中国国内の問題だ。今日も広東省でのデモが伝えられている。年12万件というのは相当なことだろう。1日350件、それも中国政府の発表しているもので、発表されていないものも相当あるだろう。
 インフレの庶民に与える影響など、中国の場合はそれが社会不安につながっていく。内乱という言葉を中国の指導者が言及している。内モンゴルの暴動などみても、少数民族の問題が改めて顕在しているのだろう。そういう脆弱性から問題がうまくいかないと、日本に矛先が向かう、そうしたことを常に頭に置いておくことは正しいだろう。

 そうは言っても、経済的にはリスクを承知の上で中国とやって行かざるを得ない。ここに入って勝負をしないと、グローバルに日本は置いていかれることになる。日中韓の自由貿易協定を作ろうとしているのはいいことだと思う。
 
 政治的には、去年の尖閣以来おかしくなった日中関係を元に戻そうという意識を中国側は強く持っていると思う。国際協調、特に日本とアメリカとの関係を正常にしておかなければいけないという意識は、恐らくリーダーの間には明確にあるだろう。

 今後のこととして日中関係で気をつけねばならないのは、やはり尖閣、東シナ海の問題だ。リーダーの思いはともかくとして、中国としては海洋進出をすることは決めている。人民解放軍は自信をつけている。アメリカのこの水域へのアクセスを拒否する能力を持とうとしている。そうしたことを背景とする人民解放軍の外交政策への影響力が出てきている。尖閣についていえば、何か起こり得ることを常に考えておかねばならない。

 そこで、三つの方策が日本にとって大事だ。
 一つは、自分の領土・領海を守ることをどのように確実にするか。基本的には海上保安庁の船で十分だと思う。下手に自衛隊、自衛隊と言わない方がいい。常時は巡視船二隻でいるが、二隻ではとても足りず、十分に増強する必要がある。船の手当て、人の手当てが大変だが、逆に言えば安い話だともいえる。

 二つ目は、中国とのパイプを良くしておくこと、一定のコミュニケーション・チャネルが必要だ。

 三つ目は、日米の安保条約、ならびに東アジア・サミットというか、近隣諸国と一緒になって国際的な対応をすること。国際的なルール作りへの基礎はある。それを、(中国が)反対できないようなかたちで、うまくルール化していく、そういうことが外交として大事であろう。

 日本にとってもう一つ大事なのは、東シナ海のガス田共同開発の案件だ。
 日中間の協議の結論として、白樺油田の開発は、中国の国内法に基づく開発であっても日本企業が入ることを申し合わせた。中国内にはこれを条約化しないようにブロックしようとする勢力が非常に強い。合意は合意としてあるが、つぶそうとする勢力が中国側にあることをよく認識しなければならない。
 これは尖閣の領有とは直接関係ないが、東シナ海に向かって中国がどんどん出て来ようとするなかで、合意にある「中間線」を引いておくことは、ものすごく重要だ。2012年春に中国が新しい習近平体制に移っていったときに、一番いいのはそれ以前に条約化の交渉が終わっていることだが、いずれにしても中国の新しい政権の首脳との間でも、この合意を再確認することが非常に大事になる。

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