薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

小島明 氏(日本経済研究センター研究顧問)「大震災でパラダイム転換した日本経済」

本論の、大震災の問題の前に、私がことしの日本の問題について言っている【イニシアルD】

デフレ。それからDebtあるいはDeficit、財政赤字。金融機関が貸し出しをしないDe-leverage。そしてDemography、人口減少、高齢化など人口問題。さら普天間基地などが一向に片付かない Defense。Dollar、ドル安・円高。
 最後に付け加えると、DPJ、いまの民主党政権。これはますますひどくなっている。

  ついでに中国の【ABCDE】。バブル崩壊などが懸念されることに加え、「建国の父」でもない人たちが権力を独占する事に対する社会的不満があって、共産党が正統性を維持することがますます難しくなっている。
 先ず、Appreciation、人民元問題。日本の経済停滞の悲惨な状況はアメリカによってもたらされた、1985年のプラザ合意による強引な円高であった、この日本の失敗を見習えというわけだが、プラザ同意当時の日本の外貨準備は三百何十億ドルだが、いまの中国は3兆ドルを超えている。つまり百倍。為替レジームをどうするか、大問題。次がBad loan。国有企業が巨大な赤字。政府はこれを隠し、つぶれないよう行政指導で銀行に融資させている。それは隠れた不良債権として累積していて、いずれこれが大問題になる。
 CはCorruption。これは中国の伝統で、大開発のなかで桁あがりに汚職の規模が大きくなっている。ときどき引き締め、あるいは見せしめのために処刑したりしているが、中央で管理できない地方の官吏の汚職はひどくなっている。そしてDemography。一人っ子政策が30年続き、間もなく高齢化、それに伴う年金制度の問題が出てくる。そうした事態に対する備えがないまま、農村の貧困も抱えながら高齢化社会に突入していった場合、社会は非常に不安定になる恐れがある。
 もう一つのDはDemocratization。一党独裁から多党制に移行していくかどうかという民主化の問題。これだけの巨大国家が一つの政治体制をうまく転回するのは、歴史に前例のない大課題。さらにもう一つのDがDifference、格差。人口の1%が70%の資産を持っているとされ、その格差はどんどん広がっている。1%といっても1,300万人もいるのだが(笑い)。
 EはEnergyとEcology。急激な環境劣化が大都市、工業地帯で進んでいる。いずれも非常に難しい構造的問題だ。ことしから新しい五カ年計画が動き出し、「質の向上を図る」という。そして「公平性、格差をなくす」、それを「和解社会」とかのキャッチフレーズで言っている。搶ャ平の「黒い猫でも白い猫でも」、要するに「成果を上げればいいのだ」と資本主義に驀進した、今回の5ヵ年計画はそれに加えてもう1匹の猫がいる、それは「緑の猫」、環境だ。

さて、本題の日本の問題。

3月11日の前に起きているいくつかの大きな事件なり危機を振り返ってみる。それらは、事件後循環的に元に戻るようなものと、局面転換して元に戻らない、分水嶺のような転換点となっているものとがある。
 歴史的転換点となった危機・事件として、9/11、11/9、9/15を拾ってみた。
歴史的な転換点となった危機・事件
9.11(米における同時多発テロ、2001年、世界的な安全保障関係・同盟関係の転換、米国はテロとの戦いを踏み絵とし、それへの協力を表明した中国の人権問題への批判を留保、先制攻撃政策)
11.9(1989年、ベルリンの壁崩壊、冷戦終焉へ、1991年ソ連崩壊、ポスト冷戦、世界規模での市場経済化・資本主義化と直接投資の大爆発をテコとした経済のグローバリゼーション、大分業・大競争)
9.15(2008年リーマンショックと世界経済危機、G8からG20への主役交替、国家資本主義の一層の台頭)

今回の大震災(2011/3/11)についても、上記と同じように特徴を挙げてみよう。

今回、要するに1991年のバブル崩壊20年続いた需要が足りない経済が、10年ぶりに供給不足経済に転換したのではないか。
 「サプライ(供給)ショック」と1991年のバブル景気崩壊後20年も続いた需要不足経済が「供給不足」型経済への転換。2008年のリーマンショックは需要ショックで、とりわけ自動車、電機など高価格品の大輸出市場だった米国自体が危機の震源地となり米国市場が収縮し、日本の輸出全体が一時期50%も落ち込んだ。“ハーフエコノミー”に。
それと対照的に今回大震災時には世界経済はリーマンショック以前以上、あるいはそれ並みの「高度経済成長」で、需要(輸出需要)」は強いが日本の輸出供給力が低下した結果として輸出落ち込み何故サプライ・ショックになったかといえば、要するに震災地域における生産設備の毀損が短期的には最も重要な問題である。
震災の影響としての資本ストックの毀損と電力供給危機。
資本ストックの毀損=日銀(2011.2.29「展望」資料)によると被災地域7道県で16〜25兆円(阪神淡路大震災の9.9兆円の2倍以上)、加えて被災地は自動車・電機産業などへ向けた高度部品の重要供給網(サプライチェーン)の集積があり、それが被災。国内生産力・輸出力を滅殺 電力は福島第1原子力発電所の重大事故を受け、安全性への不安拡大で原発の稼働停止が全国的に波及。2012年度にすべての原発が運転停止となる可能性さえあり。電力問題はむしろ2012年度以降より深刻化する可能性も。火力発電による供給増があっても原発喪失分(電力の3割)を補えず、電力不足の構造が中長期化し構造問題になる。また、火力発電に伴う電力生産コスト増から電力の料金の引き上げ、輸入する化石燃料の値上がりの両面から経済活動は影響を受ける。

 しかし、長期的に見るとどうか。
サプライ・チェーンについては予想以上に早く復旧している。鉱工業生産は、5月には史上最高の前年同月比の上昇・回復を見せている。7、8月には震災前の鉱工業生産水準に戻るとの期待が生まれている。正に日本の企業の現場の偉大な回復力で、海外でも話題になっている。
 問題は電力だ。
 電力の量の問題と価格の問題、大変重要だ。 これもまた、震災の前と後とで、パラダイムが転換した大きな側面と言えよう。

 電力供給不足による供給制約が「潜在成長力」「潜在GDP」に水準を押し下げる 。
 電力供給力下がって日本経済の供給能力が下がってしまうことにならないようにするためには、やはり生産性を上げる、技術力しかない。
 需要不足に対応した過去20年間とは発想を転換した政策運営が肝心。
 復興需要はストックの復旧・復興(毀損額相当の規模での復興需要の復活も需要増になり、問題は需要不足より需要を賄う供給力にある。生産のボトルネック。)
 マクロ総需要が足りない状況下で運営していた政策を、供給が足りない経済に転換した実体に対応することを考えないと、大失敗をするのではないかと懸念している。
 1970年代にさかのぼって、失敗事例を見てみよう。1973に第一次、1978年に第二次、この70年代の二回にわたる石油危機の結果、日本の成長率はそれ以前に比べて半分になった。
 石油危機後に日本経済はマクロ的な枠組が「貯蓄不足」型から「貯蓄余剰」型に転換。貯蓄率も低下したが、投資率がそれ以上に大幅に低下し、貯蓄率のトレンド線が投資率のトレンド線とクロスして上回った。このことは、預金の受け入れ金融機関(銀行)の預金が過剰(借入需要を超過)となったことを意味し、日本経済の近代化、工業化の長い歴史のなかで初めての「貯蓄余剰」となり、「貯蓄不足」を大前提に続けられてきた預金受け入れ銀行融合、貯蓄優遇をベースとした「銀行中心」「間接金融中心」の金融制度がその指名を全うしたことを意味した。
 しかし、銀行中心の制度と、銀行自体の「預金さえ集めれば借り手は自動的に付いてくる」という「貸し手市場」の慣性が続き、1980年代後半の不動産向け過剰融資とバブルの増幅に繋がった。
 バブル崩壊後も金融の「間接金融」中心主義が制度の面でも金融機関の経営の面でも修正されていない。その結果は、日本の起業と停滞と、金融機関自体のグローバルな競争力の劣後である。

 日本の人口では少子高齢化が問題になっているが、わたしは日本経済の“少子高齢化”が大変重大だと思う。“少子化”というのは、新しく生まれる企業が少ない。かつ倒産して消えていく企業がある。企業人口、企業数が過去十年間、一割以上減り続けている。そして“高齢化”。設備投資は更新投資を含め、一時期に比べて非常に落ちている。日本企業全体の設備ストックは、アメリカの製造業より古くなっている。古い機械を使っているということで、資本の高齢化も、潜在成長能力を下げるという点で、要注意ポイントだ。

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