薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

小島明 氏(日本経済研究センター研究顧問)「大震災でパラダイム転換した日本経済」

そこで、当面の電力危機にどう対応するか。

 電力危機への対応。原子力依存は徐々に低下させざるを得ない状況。だとすると、電力不足は長期化。「我慢をする」格好の単なる節電では限界。新エネルギーの開拓、技術的なブレークスルーで電力使用効率を飛躍的に高める、経済・産業構造をより技術集約・サービス集約型のものに転換させる――など技術革新をベースにした経済・産業・経営・生活の転換。
 発電・送配電を現行の電力会社の地域独占をベースとしたシステムのあり方について長期的な視点からタブーをなくして総点検する発想が肝要。

 1970年代の石油危機で、73年の翌年日本経済は戦後初めてマイナス成長となった。しかし、そのマイナス成長の1974年からの数年間を見ると、日本企業の設備投資はほとんど減っていない。設備投資の中の省エネ投資と研究開発型投資をみると、かなりの金額で増えている。それほど多くの省エネ・研究開発投資が行われたことは、日本以外にはなかったろう。その効果は数年後に現われ、80年代に入るころには、日本経済のエネルギー効率は世界一になった 。
 今回の危機を克服するに当たっても、技術の要素が非常に重要だと感じている。

 電力に関しては、いまの縦割りの地域独占でいいのか。同じ国のなかで周波数が違うシステムがあるという、世界でも異例のあり方、これも地域独占を守るためにわざとそうしているわけだが。さらに、技術革新で分散型の発電ができるようになっていることに対応して、発電と送電を同じ企業体るのがいいか、これも議論の対象になっている。社会の技術的能力の変化に対応して、電力供給のあり方を議論するタイミングであると思う。

その他の課題として、3・11震災に直結しないもの、また、震災に直結しないが、ますますこれから重要になるものがある。

@ 高齢化対策
人口問題はますます重要になっている。阪神淡路震災当時と比べると、いま日本の平均年齢は8歳くらい高齢化している。被災地はその典型で、一番過疎化し高齢化している地域だ。日本の将来の縮図が東北地域であろう。
A グローバル化戦略 これなしには成長戦略は描けない。
「1991」年の「日本の皮肉」=1991年はソ連が崩壊し冷戦が終わり、経済のグローバル化が世界の大潮流となった年である。インドはソ連型の経済システムを捨て改革・開放政策を断行、それをにらんで中国は搶ャ平の号令(南巡講和)のもと改革・開放政策を一気に加速。WTO加盟を睨んで動き出す。優良な資本・技術を呼び込もうとする対内直接投資誘致のグローバルな大競争が展開。誘致のため、あるいは経済成長を加速しうる制度を他国に先立って導入しようとする「制度改革大競争」が展開。 日本は同じ「1991年」にバブル景気が崩壊し、長期経済停滞に陥り、内向き化。グローバルな時代的大潮流から日本は逸脱したまま。
B その結果が企業の「5重苦」「6重苦」=高い法人税
(実効税率約40%、韓国は24%)、通商政策の出遅れ(FTA、EPAで完全な出遅れ)、円高、温暖化ガス削減、製造の雇用形態をめぐる規制強化、それに電力不足と、すでに各国より高い電力料金のさらなる上昇の可能性等。
放置すればやる気があり、外で競争力を発揮できる企業ほど生産・投資を海外に移してしまう可能性。
経産省「産業競争力に関するアンケート調査」(2012年2月)によると「今後、国内の生産機能、開発機能、研究機能、本社機能を海外に移転するか」との問に対し、283社のなかで生産機能については26社がa「一部または全部を移転」、64社がb「一部または全部の移転も視野に入れて検討中」と回答(合計90社)、開発機能は11社がa、19社がb(合計30社)、「研究機能についてはa、bそれぞれ4社(計8社)、「本社機能」に関してはbが4社。以上の機能は移転しないとの回答が84社。
C FTA、EPA
2011年7月1日、EU(欧州連合)と韓国のFTAが発効。5年以内に全てに関税が撤廃される。EUの自動車部品への現行関税は4.5%。日本のEUとのFTA(EPA)は、交渉の準備にとりかかっている段階。韓国は2010年1月にインドとのFTAも発行させている。 (参考:日本の貿易に占めるFTA対象国(交渉中の国・地域を含む)は2009年実績で、2010年12月時点で37%。韓国は61%、EUは46%。 韓国の場合、FTA締結国・地域との貿易が締結前より7割増加)

最後にみなさんのご意見を伺いたい事。

@ 上場企業の2011年3月末の手元資金(現預金と短期保有の有価証券などを合計とした手元資金)は1年前より4%増え、約52兆円で過去最高。
日本の企業貯蓄率は2010年10−12月期に、GDP日プラス8.4%(バブル景気時代は5%前後のマイナス。95年にプラスに転換、2008年のリーマンショック後、この傾向強まる。“縮み志向”?

A 日本の有配企業比率2009年で86.5%で日、米、英、カナダ、ドイツの5カ国の上場企業のなかで突出して高い。米で有配企業比率が90年代に下がり始め73%から30.2%にまで低下。
また、85年から2009年までの間に前年より設備投資を減らした企業の比率は日本企業の平均が47.1%で、5カ国中最高。R&D投資を減らした企業の比率でも日本がもっとも高い(41.5%)。米企業は22.5%

B 全国銀行の預金残高と貸し出し残高の差は2010年末で150兆円、過去最大。預貸率過去最低の73%。10年前より20%ポイント低下。余剰資金は国際投資へ、1009年末の国際保有残142兆円。

C 上場企業数。これは先述した企業の“少子化”の問題。上場企業数は、2010年末で3646社、前年末比93社減。上場していない中小企業まで入れると、大変大きな減少だ。日本は貯蓄を集めても、十分運用、融資をしていない。研究開発投資を弱め、一時期に比べるとキャッシュが余っている。このまま続いたら、日本は”草食系資本主義”になってしまうのではないかと警戒している。

 動物はジャンプするために縮む。日本経済は、1991年にバブルがはじけたときから20年間ずーっと縮んで節約してきた。このまま縮んでいると、全ての筋力がどんどん剥げ落ちていく。早く飛ばなくてはいけないと思う。
 先ほど指摘した1973年の石油危機のときは、縮んだ瞬間ジャンプを始めた。今回どうして縮んだままなのか。一つは社会的なムードがある。石油危機のときは、大変な危機感を持って、翌日から企業、家計の行動が変わった。しかし今回は、徐々に進む高齢化と同じように、だらだらと気持ちが萎えて悲観主義になっている。危機意識がなかなか生まれない。悲観主義は悪くすると敗北主義になる。世の中が変わった、私のせいじゃないと、やるべきことをやらないエクスキューズになる。政治が悪いということもあるが、これは言っても始まらない。

 最近唯一いいことは、中国がレア・アースの輸出を止めたことだ。これで企業は即日作戦会議を開き、新しい研究開発、資源開発、新しいパートナーを求めて動き出した。あのだらしない政府でさえ動いた。石油ショック以来の危機意識が瞬時に起こった。”サンキュー・チャイナ“ということかもしれない(笑い)。
 震災も一つのショックだ。単に復興ということだけではなくて、より広く、電力不足についても危機意識を持ち、研究開発を含めて経済が動き出せば、悲観主義から危機意識に転じて日本が新しい飛躍をするバネになるかもしれない。
 1970年代の石油危機のときのエピソードをもう一度思い出して、技術と企業の活力をどうやって展開したらよいかを考える非常に重要なタイミングであると感じている。

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