薮中三十二様(野村総合研究所顧問、前外務省事務次官)国際情勢と日本外交

小島明 氏(日本経済研究センター研究顧問)「大震災でパラダイム転換した日本経済」

質疑応答(Q&A)

Q(質問):これだけ日本の経済が停滞し弱っているのに、円レートはどんどん上がる。これはどういうからくりなのだろうか。普通なら、この震災で円は下がると思うのだが。

A(小島):為替の市場について、長期的均衡水準がどうかという議論をするひとはほとんどいない。明日上がるか下がるか、その瞬間の、水準ではなく、方向。「いま買ったほうがいいか」ということだけだ。短期的には円高だが、中・長期的には、私はむしろ円がすごく安くなるシナリオを警戒しなくてはいけないと思っている。
 やはり、日本の財政の問題だ。IMFは昨年夏以来、意外に遠慮しないかたちで、「このままいくと、日本は国内の貯蓄でまかないきれない赤字になる」と言っている。日本の国債は、94%くらいは国内の居住者、日本人が買っている。そうした国債は世界的に稀で、歴史的にもインフレになった戦争中のドイツくらいしか例がないという。
 日本の国債市場には信号がない。みな、政府が最終的にはなんとかしてくれるだろうという雰囲気で国債を持っている。“なんとかなるシンドローム“で、みな同じ方向になっている。しかし、「なんとかならない」という方向になったら、5%のひとが売りを出しても、市場は買い手ゼロで、一方的な売り手相場になる。国債暴落、円急落のシナリオだ。
 そこにならないように、その前に何かしなくては、何かできるだろうという状況にあって、しかし「そろそろ何とかしてくれ」と言い出したのがIMFだ。「段階的に消費税を上げたほうがいい」といったことを言っている。日本は世界最大の資産国家で、IMFは日本にプレッシャーをかけられない。しかし、最近の対日審査報告でも、「来年中にも、消費税を6-8%に上げる必要がある」としている 。
 日本の財政のバランスがよくなるような方向で、歳入・歳出両面から変えていかないと、ひとたび逆サイクルが始まったときは大変だ。日本の政権、政治が財政バランスに対してしっかりしたことをやらないままでいるとしたら、円、国債の急落は時間の問題だと思う。
 そうならないように願っている。ドサクサのなかで、日本にはまだ政策的にやれる余地があるという議論が支配的だが、そのための時間は限られている。あと二年くらいで何も出てこないと、方向は逆に向かうのではないかと懸念している。


Q(質問):デフレを脱却する方法として、財政、金融政策はどのくらい有効なのか。デフレを脱却しない限り、今後の展開が難しいのではないか。

A(小島):それは日本銀行がずっと悩んで、いろんな政策をやってみたが、何も効果が出ていない。
 基本的には、企業が積極化して雇用し、家計所得が増える、それによって消費活動がしっかりする、そういうサイクルにつながらない限り、単に金融を緩めただけでは、構造的デフレは解決できない。積極的な投資を促すような経営のインセンティブとなる緩やかなインフレのためには、需要が、ある程度強い経済でなければならない。
 どの需要かといえば、家計需要が基本になる。GDPの六割は家計であって、その家計所得が減り続けているのが問題だ。家計が欠落している、家計が縮んでいる限りはダメだ。何故縮んでいるか。企業が人件費を節約して収益を上げるような経営が蔓延している限りは、家計が犠牲になって経済は回らない。
 家計貯蓄は、1998年の危機の前まで16%ぐらいあったのが、2、3%まで落ちている。どこにその貯蓄が行ったかといえば、企業に行っている。その企業のふところで、目詰まりを起こしている。金融はバランスシートの調整がまだだめだというので、融資能力に限界があるという。要するに、金融チャネルからも企業チャネルからも、資金が循環しない仕組みになっている。そこが動かないと、家計は絶えずクッション・アブソーバーになって、力がでない。ここがポイントではないか。いまのサイクルは、ここ20年間、家計にしわ寄せがいき、そのしわがデフレを持続させるということになっている。
 需要が増えない経済にしているのは、目詰まり現象が二つのチャネルを通じて続いていることが基本的に大きいのではないかと思う。

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