柴田 明夫 氏(丸紅経済研究所代表)「資源争奪戦と震災日本の課題」

柴田 明夫 氏(丸紅経済研究所代表)「資源争奪戦と震災日本の課題」

 食糧を含めた資源問題について、わたしは2003年から危機感を持っている。この問題は、やたらに危機をあおってはいけないが、あまりに楽観していてもいけない。

 なんといっても、2011/3/11以降、日本経済は大きく変貌した。大震災と原発事故によって、長期的な電力不足の懸念が生じている。
 他方、海外では資源価格が高騰している。マスコミにはこれを投機による一時的上昇とする見方が多い。しかし、おカネが何故資源市場に入るのか。わたしは、背景に需給構造の大きな変化があると見ている。即ち、価格上昇は一時的なものではなく、均衡価格の上昇が起こっているのである。過去30年続いていた均衡点価格が大きく上方にシフトしたと捉えている。
 その背景は、中国とインドが2000年代になって重厚長大型成長過程に入って、資源需要を一気に喚起したことである。そのことによって、資源枯渇と地球温暖化という二つの危機が進み出した。このため日本経済は、国内・海外の両面で資源の供給制約の問題に直面し始めたのである。

 どうしたらよいか。限られた資源を巡って資源の争奪戦が繰り広げられているのだ。  
 先ず、食糧を含めて資源の安定供給を図る必要がある。これは、商社にとっての大きな役割だろう。
 第二に、資源枯渇・温暖化に関連して供給制約が強まっているわけだから、なるべく資源を使わないようにし、また代替エネルギーを開発することによって、効率的な社会の仕組みを作っていくことが重要だ。
 そうした観点からすると、水・土地・人材という国内資源を見直し、フル活用することを強調したい。

 大震災後の状況を考えると、東日本と西日本とでは経済のあり方がずいぶん変わったのではないかと思う。つまり、日本全体を一律に新しい成長を目指すのは無理がある。  
 西日本は、従来以上の高い成長を目指す。しかし、東日本は成長というよりは価値観の変化を含めて積極的安定を目指すというかたちになる気がする。そして、安定を目指す場合の拠り所となる産業として、一次産業をもう一度見直すことと研究開発型の産業立地を考えるべきではないかと思う。  

 ここで「萃点」という言葉を特に挙げてみたい。
南方熊楠・萃点
 民俗学者南方熊楠の書の想を得たものだ。日本の経済・社会は、格差、環境、教育、地域経済の疲弊など様々な問題をかかえているが、これらの問題点が絡み合ったところを「萃点」とする。それで、この絡み合った点(萃点)を解きほぐすことによって、様々な問題のソリューションを得ようというのである。
 日本の経済・社会の萃点は何かを突き詰めると、それは食糧・農業・農村ということになると、わたしは思う。

 経済成長を10年平均でながめてみると、世界経済は5%成長の時代と3%成長の時代とに大きく分けられる。5%時代というのは、1950-1960年。このころは日本と西独が高度成長過程にあり、世界経済を牽引していた。日本は、1955年の経済白書で「もはや、戦後ではない」とした後、名目16%、実質9%の成長を続けた。
 1973年のオイルショックによる塗炭の苦しみの中で経済を高度化した。先進国全体が省エネ・省資源を進めてくると、経済成長は3%台に下方屈折し、それが90年代まで続いてきた。

 2000年代は、新興国の重化学工業化が進んできた過程だ。それまでは、食糧、繊維、雑貨等の軽工業が中心で資源市場への影響は限られていたが、2000年代に入って大きく局面が変わる。リーマン・ショック以降は、パワー・シフトが鮮明になってきた。90年代までは、先進国が世界経済を引っ張り、資源もほぼ独占して使っていた。ただ、成熟した先進国の資源需要は毎年喚起されるわけではなかった。資源価格も、先進国の景気変動に応じた需給変化に対応していた。
 しかし、2000年代になって毎年毎年、資源需要が喚起されるという局面に入ると、需要サイドから価格が押し上げられるという状況になる。だから、世界経済のパワー・シフトが鮮明になれば、その影響は資源マーケットに先鋭的に現われるようになった。
 その現われ方は、単に価格が上昇するというのではない。小麦、トウモロコシ、原油の過去60年の動きから言えるのは、価格が階段状に上がってきていることだ。いま起こっている価格上昇は、70年代までの動きがスケールアップされているわけだが、70年代との違いが二つある。一つは、資源枯渇の問題がより鮮明になってきたこと。もう一つは、温暖化の影響だ。500年タームだと地球は冷却化しているといった見方もある。しかしわたしは、20年30年の近未来を心配している。世界人口についても、2050年を過ぎると減少するという見方があるが、その手前の増加が問題なのだ。
 資源は、拡大する需要に対して供給を増やしていかねばならないのだが、濃縮されて経済的な場所にある資源が枯渇傾向にあることからすると、濃縮されていない、あるいは経済的でない場所にある、つまりコストの高い資源までを総動員しなければ需要に間に合わないという状況になってきている。
 90年代までの30年間低位安定していた資源価格は、2000年代に入って一気に上昇する。原油や銅地金のここ数年の動きを、マスコミはよく投機マネーによるマネーゲームだという。しかし、価格とは何かを改めて考えると、あらゆる情報が収縮されたものだといえる。その価格が、あらゆる資源について上昇し始めたということは、需給の構図が大きく変わってきたと捉える、資源価格は上がるべくして上がっているのだと。
 逆にいうと、過去30年安い価格が続いたが故に、資源の浪費が進んでいた、それが中国、インドの経済成長で需給が一気に引き締まったのだと見ている。

次へ




***

トップページ

ご挨拶

趣旨と目的

活動内容

企画・運営メンバー

入会ご案内

活動実績

講演要約