柴田 明夫 氏(丸紅経済研究所代表)「資源争奪戦と震災日本の課題」

柴田 明夫 氏(丸紅経済研究所代表)「資源争奪戦と震災日本の課題」

 中心にあるのはやはり中国だ。1978年の改革開放以降昨2010年で32年になるが、昨年のGDP成長率は10.3%。2009年までの平均成長率がジャスト10%。つまり78年から32年にわたり平均10%で成長してきた。昨2010年には、GDPが日本を抜いて世界二位になった。
 2000年のとき経済規模は1兆ドルを超えて、第6位のイタリアを抜いた。しかし6位とはいえ人口で割ると一人当たり1000ドルに満たない、まだ貧しい国で、さらに高い成長を目指さねばならなかった。
 1兆ドルの経済をさらに成長させるためには、成長のエンジンを切り替える必要があった。それが、2001年のWTO加盟である。それによって中国は、三つの成長エンジンを手に入れた。一つは輸出で成長する。二つは、外資で成長する。外資を導入し、技術も導入して成長する。三番目には、成長に必要な資源を海外から得て使う。
 そうした中で、中国は資本の取引について「走・出・去」という政策を打ち出してきた。中国の企業が海外に打って出るということだ。
 WTO加盟以降の成長率を見ると、それまでの8%台から加盟翌年の2002年には9.1%、2003年以降は二桁成長となり、2007年は14%。そして2008年の北京オリンピックで加熱気味になっているのを抑え、8月8日の終了とともに手綱を緩めようとしていたところにリーマン・ショックでがくっと成長が落ち鈍化したけれども、9%の成長は維持しているという状況だ。
 昨2010年の中国の一人当たりGDPは4,380ドル。先進国の目安10,000ドルにはまだ大きく満たない。さらにその倍を目指すとなると、引き続き高い成長をしなければならない。
 2011年3月の全人代では、<第12次五ヵ年企画>(2011-2015)で7%成長の目標が掲げられた。実際にはもっと高い9%前後の成長を続けると思う。これは、10年で経済が倍になるということで、資源の需要はさらにその倍になるような成長ということだ。

 ただ、資源の大量開発、投入、生産、消費、廃棄という粗放型の経済成長では、今後環境問題などからみて持続が難しいという意識になってきている。ことしの<第12次五ヵ年企画>では経済の「三つの方針」が打ち出されている。
 一つは「強国から富国へ」。強い経済を目指し実現したが、格差が広がった。格差是正をねらいとして「富んだ民へ」という切り替えを行っている。その手段として、「外需から内需へ」すなわち輸出主導から消費主導の成長が謳われている。流通、情報、金融などのサービス産業中心の経済にもっていくということでもある。そして、「高炭素社会から低酸素社会へ」と、環境に配慮した方針転換を打ち出している。
 しかし中国の歴史をみれば、問題が起こって対策が打ち出されると、それが新たな矛盾を生み出すということの繰り返しだった。方針転換のため2020年に向けて社会インフラの整備を急ごうというのだが、それが資源の争奪戦を強める恐れがある。
 先述の「走出去」政策で資本規制が緩和され、企業は海外に打って出て海外の資源権益を買う、技術、企業を買う。それによって人民元の切り上げ圧力を弱めようとしている。

 人民元については、2005年7月21日に、それまでの1ドル=8.275元から8.11元へと2%強切り上がった。足元では6.4元くらいまでの元高になっている。
 この元について、三つの基本的考え方がある。一つは管理可能性。二番目が「ひとに言われるまでもなく自分で」という独自性。三番目が「ゆっくりと見直していく」という漸進性。それで結構切り上ってきている。IMFは、人民元の理論値として2015年に4.03元というのを示している。いずれにせよ元は強くなっていくということであり、海外での資源権益の争奪戦が非常に有利になる、これまた資源価格押し上げの構図になるということだ。

 中国の資源市場でのプレゼンスは、世界の需要の2-4割が中国になっている。1970年代初め、日本の鉄鋼業の生産量が1億4,000万トンになったころ、毎年の伸びは1,000万トンくらいであったが、2000年代に入ってからの中国の鉄鋼生産の伸びというのは、毎年5,000万-1億トンだ。これが、資源市場に影響を与えないわけがない。
 
 こういう粗放型の経済成長に対する警戒から打ち出されたのが、先述した「強国から富国へ」「外需から内需へ」「高炭素から低炭素へ」で、それを達成するため次のような策が挙げられている。
 一つは、高速鉄道ネットワークの建設。「人口10万人」と定義されている「都市」が660あり、その内「50万人以上」の都市約280を2020年までにことごとく新幹線で結ぶという。あまりに急ぎ過ぎで、先日のような事故も起こっている。
 もう一つは、電力の供給不足が言われる中で「特別高圧送電線」のネットワークを作り上げるという。
 
 限られた資源を巡って、本来ならかつてのヨーロッパの石炭鉄鋼共同体(ECSC)のような国際的協調管理が行われるとよいのだが。しかし、各国が国益にそって資源争奪戦に入っている現状では、そうした体制はあまり期待できない。となると、要はあまり資源を使わず、もっと資源効率のいい社会を作るという技術革新に期待するところ大である。この部分は、依然として日本企業の役割ではないかと思う。

 原油価格は、1980年代までの1バレル20ドル弱の時代は完全に終わった。2009年後半以降80ドル前後で推移している。原油価格の動きに対する私の思いを言えば「水準には順応するが、変化にはついていけない」ということだ。2008年に100ドルを超えて原油が上がっていったとき「投機マネーによるゲームはけしからん」という声が上がった。「100ドルを超える原油に世界の産業構造はついていけない」と。しかし「ついていけない」というのは、20ドル以下の安い供給を前提とする産業構造だ。資源枯渇と温暖化を考えると、80ドル、100ドルの原油価格を容認して、省エネ・省資源による産業構造の高度化で高価格になった資源に対応していくことが必要ではないか。

 中国は2008年以降積極果敢に国家資源戦略を進めている。産業構造の高度化という面では「二高一資」ということを言っている。「エネルギー消費量の高い産業、環境負荷の高い産業、資源消費量の高い産業の高度化を図る」ということだ。要は、鉄鋼、非鉄、石油化学などの重化学工業の高度化である。



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